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スザンヌ・ダンラップ
小学館
¥ 1,575
(2010-08-03)
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西本かおる訳
小学館のYA向けシリーズの一冊で、原題は「The Musician’s Daughter」。邦訳の
「ヴァイオリン」は良いですね。(「バイオリン」という表記は何だか嫌・・・。)
『スリルと冒険のつまった感動ミステリー
18世紀、音楽の都ウィーンを舞台にした、歴史ミステリ-。クリスマスイブの演奏会の帰り、音楽
家ハイドンの楽団ヴァイオリニストが、突然、何者かに殺される。そして、大切にしていたヴァイオリンが、消えてしまった。このヴァイオリニストの娘テレジ
アは、身重の母と年若い弟とともに取り残され、悲しみにくれるが、どうして、こんなことになったのか、父の死の真実を知ろうと決意する。そして、父の死体
を運んできた友人に、現場に連れて行ってくれるように頼む。そこは、ロマの集落の近くで、普通の人は、めったに立ち寄らない場所だった。なぜ父は、こんな
ところに来ていたのか……。謎は、深まるばかりだった。
登場する音楽家ハイドンは、交響曲の父とも呼ばれる作曲家。また、他にも、エステルハージ
侯爵、女帝マリア・テレジア、皇女マリア・エレザベートなど、実在の歴史上の人物が多く登場し、フランス革命前の激動の時代を背景に、臨場感あふれ、読者
を引きつけて放さない。しかも、歴史に基づいたストーリーでありながら、歴史的背景を知らなくてもすんなり楽しめるのは、主人公のテレジアが、時代を超え
て愛される魅力あふれる少女だからといえるだろう。 』
(~amazon)
作者
スザンヌ・ダンラップは子供の頃からピアノを習っていたが、長ずるに及んで演奏家の道を断念。音楽史で博士号を得たらしい。ストーリーは・・・amazonの説明で充分かな?(笑)
いかにもYA向けの表紙で、軽〜い内容を想像し予備知識ゼロで読み始めたのですが、悲惨なクリスマス・イブの夜の描写から始まったお話は18世紀の貧乏音楽家家庭の苦しい生活の様子が延々と続いてかなり辛い前半です。
映画「アマデウス」でも描かれた貧民墓地の穴に父親の遺体を葬る家族の悲哀、縁を切られて長年会っていない叔父の、「結婚の持参金なら用意してやろう」という口約束にすがるしかないと一途に思い込む身重の母親。真実を解き明かして父親の
ヴァイオリン(アマティ)を取り戻したい娘テレジア・マリア(15歳?)・・・。父親の音楽家仲間も何やら秘密を隠している様子で、不穏な空気をはらんだウィーンの世情もあって先の予想もつきません・・・。なんだこれは?とちょっと困惑しました・・・。(汗)
『18世紀後半、東欧各国で啓蒙専制君主が出現して近代化政策を推進した。オーストリアでは皇帝
ヨーゼフ2世が、1781年に農奴解放令を出して農奴制廃止を図ったが、貴族など抵抗勢力の反発を招き改革が頓挫したため、事実上農奴制は温存された』
(〜wikipedia)
Wikiの「農奴制」についてのこの記述を時代背景とした頃のオーストリアの首都
ウィーンが舞台。心ある人々の犠牲とその影で繰り広げられた人間ドラマを15歳?の少女の目線で追い、ハイドンを始めとした音楽家、ロマ(ジプシー)の人々や、宮廷人そして皇女マリア・エリザベートから皇帝ヨーゼフ2世まで登場し、最後は
ホーフブルク宮の接見室での怒濤の結末までなだれ込みます!
父親譲りの絶対音感をもつテレジアと、好々爺然とした名付け親(パパ)ハイドンとの公私にわたっての心温まる交流、エステルハージ家のお抱えオーケストラの内情、宮廷の召使い達の日常や上流階級、社交界の様子など、興味津々の場面に、主人公達の危険と隣り合わせの無鉄砲な行動や恋の行方も描かれていて飽きさせません。
全体としてもかなり複雑なストーリーなのですが、読み進む上で分かり難い部分が無く、あの時代の世情や風俗なども含めて「音楽史家」らしい丁寧で緻密な描写がされていて感心します。少女が主人公ですが
本格的歴史サスペンス・ロマンチック・ミステリーと言っても良いくらいの出来ですね。(笑)
見かけによらず凄い本!ということで、お薦めしておきましょう。