2010.04.21 Wednesday
三浦 しをん 「風が強く吹いている」
表紙のイラストは山口晃氏。浮世絵風の洒落れたもので、読了後にじっと見るとあの場面、この場面と、様々な発見があります。
『箱根の山は蜃気楼ではない。襷をつないで上っていける、俺たちなら。才能に恵まれ、走ることを愛しながら走ることから見放されかけていた清瀬灰二と蔵原 走。奇跡のような出会いから、二人は無謀にも陸上とかけ離れていた者と箱根駅伝に挑む。たった十人で。それぞれの「頂点」をめざして…。長距離を走る(= 生きる)ために必要な真の「強さ」を謳いあげた書下ろし1200枚!超ストレートな青春小説』
(〜amazon)
「超ストレート」か・・・・・・。(笑)
この間の「文楽」小説に続いて今度は「駅伝」小説です。読んで見てまたまた愕きました。もの凄く詳細な取材を重ねたことがすぐに分かる出来です。駅伝なんて正月のTVでしか見ない人がほとんどだと思いますが、まるで著者が実体験して書いたような描写が溢れていてこの作家の「入れ込み具合」が半端で無い事がひしひしと感じられます。
基本的に、ちょっと荒唐無稽なお話をいかにもそれらしく感じさせるといういつもの手法ですが、登場人物の描写が実に「濃い」のですね。数々のエピソードを通して語られる彼らの奮闘振りに時に涙ぐんでしまう場面もあちこちにあります。
所々で笑わせながら、叙情的な部分やダイナミックな展開の部文を上手く配置していて読ませます。ついつい止められず・・・深夜までかかって一日で読了してしまいました。(汗)
冷静に考えると、ひ弱なオタク風の人物達がこんな「偉業」を成し遂げるという部分についての、キチンとした裏付けが若干不足しているようにも思えますし、他にも、冒頭の「万引き事件」の処理が済んでない、未成年の飲酒場面があるとか・・・PTA関係者(笑)には気になる場面もありますが、細かいことは言わずに楽しんだ方が良いでしょうね。(笑)
いわゆるエンタメ小説ではありますが、作品中に込められた作者の意気込みが伝わってくる稀有な作品で、登場人物の汗と涙、濃密な人間関係の描写に圧倒される「快作」と思います。