2016.04.23 Saturday
村山早紀「コンビニたそがれ堂 セレクション」
これも「竜宮ホテル」と同様に、書名からの印象でお手軽な子供向け読み物かと思って手を出しかねていたのですが、読んでみてビックリ!ルリユールの・・・コンビニ版ですね。(笑)
『かけがえのない明日が、遙かな思い出の空から聞こえてくる。ひとり胸に秘めた記憶を包みなおしてくれるお店、「コンビニたそがれ堂」。心に灯がともる、人と時間の不思議な物語。 』
(〜amazon)
1、あんず
2、人魚姫
3、星に願いを
4、天使の絵本
5、花明りの夜に
6、エピローグ 風早の伝説
7、創作メモ 〜後書きにかえて
舞台はお馴染みの風早の街。背景説明を兼ねた2ページのプロローグに続いて、時間も登場人物も全く異なるストーリーが展開されていきます。猫とお兄ちゃんの「溢れる感謝の物語」。引きこもり少女の恐ろしくも感動的な「再生の物語」。過去の失敗を悔やむ医師が絶体絶命のピンチで経験する「命の絆の物語」・・・等々、バラエティーに富んだ作品が揃っています。
元々が児童向け文学から始めた作者らしく、かなり個性的な語り口で、純文学ばかり読んできた方には面食らう表現の部分もあります。どうも・・・ひらがなが多い・・・ラノベ風の軽い表現が多い・・・と言うような文章作法の面から、猫が使うのは・・・手じゃなくて足だよね(笑)・・・御稲荷さんがX'masってどうよ・・・BlackBerryって、こんな旧い携帯、今時の人は知らないでしょ!(でも黒電話は停電時も使えると知っている!)なんて些末な事もあちこちにありますが、読み進むうちにはどうでも良くなって・・・実に濃密な描写、思いもよらない展開の連続に・・・気が付くと・・・圧倒されていました。(汗)
いやはや凄い本です。普通だったらこの辺で終わり・・・あるいはこれでは話がまとまらない!!空中分解だ!と思ったその先が用意されていて、優しい微笑みに満ちた結末が待ち構えているという素晴らしい構成の作品ばかり・・・。
特に驚いたのは書下ろしの新作である「天使の絵本」。荒涼とした戦後の焼け跡で、生きるためには手段を選んでいる余裕も無くなり荒み切った日々を送る主人公の少年の、偶然過ごした一夜とその後日談です。思わずチャップリンの「ライムライト」やディケンズの「クリスマスキャロル」を彷彿とさせるような文字通りの「聖夜の物語」は香気溢れる傑作で、ドラマ化や映画化を期待したい出来ですね!
シェーラ姫やマリリン、ルルーの物語を一緒に読んできた娘達も独立し、しばらく読む機会が減っていた作者の作品ですが、いつの間にか「大人向き」の小説が多数出版される作家に成長していたようですので、改めて近年の作品を読んでみようかと思います。いわゆる「普通」の作家とは一味違う、異彩を放つ作風・・・イリュージョン系ファンタジー作家の今後は、多いに期待できそうですね。
それにしてもこの本・・・装丁もそうですが、内容的にもクリスマスプレゼントにピッタリです!こんな本を受け取る側はもちろんですが送る側も・・・きっと幸福感に包まれます・・・。
ですから・・・誰か私にプレゼントしてくれないかな?(笑)