雪太郎のつぶやき

美しいもの、面白いもの、切ないもの、考えさせる物・・・。一人が好きだけど、独りじゃ寂しい。そんな私のつぶやき・・・・。
クラシック音楽が苦手な人にはお薦めできません。暗いのが嫌いな人にはお薦めできません!!お子様にもお薦めできません!!
[謝辞]
父と母に、家族に、多くの慰めと喜びを与えてくれた、過去、現在、そして未来の芸術家達に、感謝!!
[おことわり]
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2012.03.03 Saturday

フィリップ・プルマン 「ブリキの女王」上・下

山田 順子 訳

読んだのは・・・正月休みの頃だっけ???(汗)

フィリップ・プルマンが1985年位から刊行を始めたシリーズの外伝。「ライラの冒険」シリーズが有名で、それ以外の作品は児童向けの数点しか知りませんでしたが、「サリー・ロックハートの冒険」シリーズという3部作もあるらしく、この本は「外伝」(第4部)と言うことらしく、以前の脇役が主人公として登場しているそうです。

『ところはロンドン。才能はあるが貧しい娘ベッキーは、ある若い女性にドイツ語を教えることになった。だが、コックニー出身で読み書きもできないその女性、 なんとラツカヴィアという小国の王子ルドルフと極秘裏に結婚しているというのだ。さらに本国で皇太子が暗殺され、弟であるルドルフが第一位の王位継承者に なったため、ベッキーは王子のもとで知り合った私立探偵ジム・テイラーと共にルドルフ王子らに同行してラツカヴィアへ行くことに…。舞台はヴィクトリア朝 のロンドンから激動のヨーロッパ大陸へ。カーネギー賞70周年オールタイムベストに輝く「ライラの冒険」の著者プルマンの傑作シリーズ。 』
(〜amazon)

力強い表紙が雄弁で、読了後に見ると全てを語っていることが良く分かります。プルマンらしく人物描写が生き生きとしていて、読み初めてすぐに引き込まれました。

ところが、貧しい少女が王女になると言うファンタジーと思って読み進む内、ロンドンの片隅から始まった物語が、歴史の荒波に翻弄されて消えて行くヨーロッパ大陸の小国の運命を描く歴史物語に変貌していく・・・予想外の展開に驚かされる作品でもあります。

民と国土を持つ「王室」という絶対的な存在がいつの間にか揺らぎ始め、列強の思惑の中でもろくも瓦解していく行く・・・単なるエンタメと思って読み始めた私がビックリさせられました。

そして読了後には、世界の歴史上にはこんな国々が無数にあったのだな・・・と思い至って、ある意味「普遍性」を感じさせる物語を書き上げたプルマンの力量に感心させられましたね。

このシリーズ・・・他の本も読んでみようかな〜!

2011.11.24 Thursday

廣嶋 玲子「火鍛冶の娘」

廣嶋 玲子
角川書店(角川グループパブリッシング)
¥ 1,575
(2011-03-26)

どこかで見た様な表紙・・・東 逸子さんの作で、「送り人の娘」と同じコンビです。

『火鍛冶の匠を父に持つ少女・沙耶。鉄を鍛え、武器や道具を作り出す父親に憧れ、自分も火鍛冶になることを目指す彼女だが、この世界には、女は鍛冶をしては いけないという掟があった。男と偽り、鍛冶を続けていた彼女に、都からとんでもない依頼が。それは20歳になる麗しの王子に、剣を鍛えてほしいというもの で…。叶わぬ夢に身を焦がす男装少女の、鉄と炎の和風ファンタジー』
(~amazon)

「和風ファンタジー」とあるように、この作品も日本の古代を思わせる架空の世界が舞台。火を操って鉄を鍛え上げる鍛冶という職業は畏怖と尊敬の対象だったという事が背景にある。それ故「女人禁制」の掟があったため、主人公の少女は男装して生きる道を選ぶ。しかし、その手が生み出した剣は国に悲劇と混乱をもたらし・・・思い悩んだ少女は初潮を迎える!彼女は神を呪うが、現われた女神によって祝福され、女として目覚めた少女の作った剣により平和がもたらされる・・・というお話。

火鍛冶と書いて「ほかじ」と読む。

神の恩寵か?16歳まで男として生きてきた沙耶の徹底した「男っぷり」も凄いですが、最悪の場面で初潮を迎えるという本人にとっては悪夢のような展開は男には考えもつかないと思う。そして、そんな彼女に救いの手を差し伸べるのも里の女達と大巫女の老婆、そして奥山の姫神という徹底ぶりで、さらにはお話が進むにつれて「性」に関するどんでん返しがいくつもあるという、非常に男の影が薄いストーリーと感じます!(汗)

多分、読者層に合わせているのでしょうが、女の方が優れているとかいうお話ではなく、物語中の人物のように自分の「性」を偽るのではなく、偏見やこだわりを捨てて、それぞれが自分の「性」を素直に認めて生きようというお話ですね。

また、その他の特徴として、前作同様にぎょっとするほど凄惨な場面があってビックリさせられます。上橋菜穂子氏も「痛い描写が得意」だったので「女ならでは」なのでしょうか??ちょっと不思議です。(汗)

結末はほのぼのとした雰囲気のハッピーエンド。終章では、神を寿ぐ剣を生み出した、女鍛冶を長とした匠一族の伝説を紹介して結びとしています。もちろんこの女鍛冶こそ「火鍛冶の娘」と呼ばれた沙耶のことであるのは言うまでもなく・・・物語が神話の中に溶け込んでいくという感触が印象的・・・。

さて、改めて表紙を見ると・・・やはり、 たつみや 章の「月神シリーズ」「イサナシリーズ」を彷彿とさせる本です。時代背景やストーリーも同様ですが、このお話自体は確固とした独自の世界観が感じられて感心します。シリーズもののように大きな世界が展開する訳ではないけれど、一話完結のお話としての完成度は高いと思います。今後も期待したいですね。

2011.11.19 Saturday

荻原 規子 「RDG5 レッドデータガール 学園の一番長い日」

RDG第5巻・・・読了しました。

『いよいよ始まった“戦国学園祭”。泉水子たち執行部は黒子の衣装で裏方に回る。一番の見せ場である八王子城攻めに見立てた合戦ゲーム中、高柳たちが仕掛け た罠に自分がはまってしまったことに気づいた泉水子は、怒りが抑えられなくなる。それは、もう誰にも止めることは出来ない事態となって…。ついに動き出し た泉水子の運命、それは人類のどんな未来へ繋がっているのか』
(~amazon)

世界遺産「熊野古道」
・・・山深きそのただ中の神社で両親と離れ育った「鈴原泉水子」。極度の人見知りで「姫神憑き」の血を受け継ぐ少女は、宮司である祖父とひたすら控え目な生活を送り、自らを開放するのは、山中で人知れず「舞」を舞うときのみ・・・。しかし高校の進学先となったのは東京八王子の鳳城学園・・・特殊な能力者を選抜するための設立された学校だった。山伏の家系である幼なじみの相良深行、忍者の家系である宗田姉弟たちと親交を結び、生徒会のメンバーとして忙しい日々を送るが、折に触れて披瀝される泉水子の「力」は次第に周囲に波紋を拡げ、遂に、泉水子と深行は「姫神」の覚醒は未来における人類滅亡に繋がる事を知る・・・。そして季節は秋となり、折から開かれる「学園祭」・・・実は世界遺産候補選考会のさ中・・・泉水子は目覚める!!

粗筋を知らない方のためにamazonの説明を補足するとこんな感じかな?

半日あれば読了出来るんだけど・・・途中で何度か飛んでる?と感じる部分があってもう一度読んで見る・・・すると・・・読む度に引き込まれる!

結局三回読んでしまった・・・。(汗)

ストーリーとしては学園祭前日から当日までの三日間の出来事が時間を追って描かれるが、登場人物の心理描写が延々と続く場面も多く、困惑、ためらい、躊躇、悲観、そして安堵・・・といった感情の起伏が手に取るように分って面白い。

荻原作品らしく、宗田姉弟や泉水子、深行などの間の「心理的距離感」や「立ち位置」の変化の描き方が絶妙で、その変貌ぶりが丁寧に、丹念に追われていて楽しめます。「目覚めた!」と言う泉水子にしても、「力」の使い方が彼女らしく、思わずやったことは・・・とりあえず逃げる事と・・・犬(笑)・・・そして最後は優美に「舞」・・・と、どこまでも泉水子で・・・微笑ましいですね。

その他、宗田姉弟の「理由」や人と心霊の関わり方、陰陽師や山伏集団などの「大人の事情」も語られてこの物語の「背景」のアウトラインはほぼ分かる内容・・・。

正直、現代っ子が戦国物!???・・・いたいけな少女が恐ろしい「姫神」!!?・・・人類滅亡!!??・・・世界遺産!???・・・と、この作者らしい論理の飛躍 や落差を感じる面がアチコチにあって困惑させられる訳ですが、何度か読むうちに何となく納得させられてしまう・・・筆力と言うのか説得力と言うの か・・・呆れると言うか・・・感心します。(笑)

ただ一つ今までの流れと違ってきたのが覚醒した泉水子と姫神の関係かな?私には先の予測がつきませんが、深行との関係も含め、「過酷な未来」にどう立ち向かって行くのか?という面でも目が離せない展開になってきましたね。

次巻第6巻が待ち遠しい!

2011.11.13 Sunday

エリザベス・コーディー キメル「ある日とつぜん、霊媒師」

エリザベス・コーディー キメル
朔北社
¥ 1,470
(2011-10)

もりうち すみこ 訳

巫女とか霊媒師って・・・興味ありますね!(笑)

『キャットの母親は、霊媒師。…そう、死んだ人が見えて、話もできて、死んだ人と生きている人との仲介をする人。そのおかげで、家では日常的に怪奇現象が起 こり、見えない亡霊たちが、キャットの人生を狂わせている。ところが、十三歳の誕生日を迎えたキャットにも、なんと、霊が見え始めたのだ!―』
(〜amazon)

表紙の絵は東洋人の女の子・・・何だかドタバタコメディー風の軽いものを感じます。実際、中身はアメリカのティーンエージャーの賑やかなスクールライフが主で、交わされる会話も結構乱暴。TVのあちら製ドラマで聞かれる弾丸トークや罵声が飛び交う場面もあります。(笑)

ただし、やはり霊媒師のお話なので少々怖い場面や・・・突然目覚めた能力に主人公が戸惑い、苦悩しながらも自分の運命や使命を受け入れていく様子が描かれていくと言う真面目な面もあります。

面白いのは、いかにも現代風に、美貌を武器に学園を「支配」するイジメっ子や取り巻き、天才的な才能を持ちながら音楽を捨てたチェリストの卵、何故か図書館に現れるフルートを持った少女の霊・・・等々、実に個性的な登場人物が絡み合い、スクールライフのメインイベントとも言えるダンスパーティーの夜を頂点に盛り上がって行くと言う、意外とダイナミックな展開でしょうか。

また、登場人物たちの家族の複雑な親子関係や、過去から引きずる苦悩・・・一種病的な面や都会に住む現代人の孤独などにも触れられていて「単なるエンタメ」に終わっていないと思います。

結末では、無我夢中の主人公が霊媒師本来のつとめを果たすのですが、美しいクラシック音楽がすべての憂いを解消するという爽やかな終り方がとても印象的でGOODでしたね。

原書は「SUDDENLY SUPERNATURAL」というシリーズものの第一巻 (#1: School Spirit)で、現在4巻まで出ているらしい・・・。

ニューヨーク生まれの作者らしい、現代的で色んな要素が混じり合った結構お洒落でミステリアスな物語・・・休日の午後を過すには最適な一冊だったかな?(笑)

2011.11.12 Saturday

菅野 雪虫「羽州ものがたり」

菅野 雪虫
角川書店(角川グループパブリッシング)
¥ 1,680
(2011-01-29)

「天山の巫女ソニン」シリーズでデビューした菅野雪虫氏の第2作ですね。「カドカワ銀のさじシリーズ」の為の読み切り書き下ろし作品ですが・・・表紙のイラストが実に濃くて私としては・・・ちょっと引きました・・・。(笑)

『ひとつしか瞳をもたない鷹のアキと暮らす少女・ムメは、都から来たばかりの少年・春名丸と出会った。それが縁で春名丸の父親・小野春風にさまざまなことを 教わるムメ。やがて見違えるような娘へと育ったムメは、春名丸との友情をはぐくんでいく。だがそのころ、羽州では都に対する戦いが起きようとしていて ―!!それが、東北の地、羽州で起きた「元慶の乱」のはじまりだった』
(〜amazon)

ソニンシリーズは一見中国か東南アジア風のエキゾチックな世界が舞台でしたが、今度は日本の古代(九世紀頃)の東北でのお話。書名にある「羽州」は現在の東北の日本海側で、太平洋側は「奥州(陸奥の国)」らしく、大和朝廷の支配下での「辺境」における人々の生活が表紙同様の柔らかい感触で描かれていきます。

前半は、春を告げる花「梅」から名付けられた主人公ムメと、都から来た少年春名丸の出会い、家族共々の温かい交流と別れの様子が。後半は、歴史上の事件「元慶の乱」に取材し、過酷な税の取り立てと飢饉の故に蜂起した人々の戦いと平和の到来まで・・・というストーリーです。

当然のことながら無意識のうちにソニンの物語と較べてしまうわけですが、読み切りだけにスケールの大きさは無く、春の曙・・・とでも言うようなホンワカムードが感じられますね。(笑)最初のうちはその点が気になりますが、後半の戦いを経て平和へ・・・という部分ではさすがに引き締まった展開になり引き込まれます。

主人公ムメや春名丸、不器用な生き方しかできない少年カラスと言う三人の間の素朴な友情、周囲の大人達の暖かな眼差し、飢饉に続く蜂起と混乱、捨て身で危険に立ち向かうムメたちの大胆さ・・・・ソニン同様に細やかな心理描写や、意外な仕掛け、そして情感豊かな結びの展開も健在で読ませますね。

私にとっては近年における「事件」とでも言えるような素晴らしいデビュー作、それに続く第2作ですから色々と難しい面もあったかと思いますが、定評有るシリーズの1巻としての出版は上々の出来と言えます。、伸びやかな村娘ムメと人々の波乱の日々を描いた本作は、この国の長い歴史が支配する者とされる者の関係の歴史でもあったことを実感させてくれると共に、ほのかな梅の香りのような温もりも伝えてくれます。

2011.09.18 Sunday

ケイト・ペニントン「エリザベス女王のお針子 裏切りの麗しきマント」

柳井薫訳

作者はイギリス人で二児の母。「ケイト・ペニントン」という名は、作家ジェニー・オールドフィールドがヤング・アダルト向けの歴史小説を書く際のペンネームらしい。いずれにしろ初めて聞く名前ですが・・・。(笑)

原題は「Tread Softly」。直訳すると「優しく踏んで」となるのか?広く考えると様々な解釈が出来る微妙な言葉ですが、この本の冒頭にはW・B・イエーツの同じような内容の詩が載っていてこれまたとても微妙・・・イギリス人らしいこだわりが感じられます。邦題はかなりの意訳ですが「エリザベス女王」とはエリザベス一世のことで、映画にも描かれた女傑でございますね。そして・・・お話はこの女王様も登場して進んで行きます。

『仕立て職人を父に持つ十三歳のメアリーは、刺繍が得意なお針子だ。花や鳥など、自然の美しさを布に刺していくメアリーの腕は、かなりのものだった。父が仕えるシドニー卿のもとにウォルター・ローリーが訪れた。シドニー卿の妻子がエリザベス女王を訪問するのに同行しようというのだ。そして、その際に身に着け るマントを作るのは、メアリーと父の仕事になった。しかしある夜、メアリーは、カトリック派の数人の男が、女王の暗殺を計画している話を偶然聞いてしまっ た。そのうえ、そこに来合わせた父が殺されるところまで目撃してしまう…。エリザベス朝時代を舞台に、実在の人物を巧みに配して、女王を救おうと奔走する お針子の少女の冒険を描く、ロマンティックでスリリングな物語。 』
(〜amazon)

映画でも分るように男も女も豪華な衣装が好まれたあの時代、手の込んだ刺繍や縫製には多くの職人が必要だった。そんな史実を上手く取り入れたこの小説は、主人公メアリーの細々とした日常風景から始まって、地方領主の館に使える仕立職人たちの働きぶりや領主一家との関わり方が丁寧に描かれていて興味深いです。

ご多分に漏れず横暴な女主人や娘達・・・堪え忍ぶ使用人とのユーモアも交えた丁々発止のやりとりはこの手のお話の定番でしょうか?(笑)

この小説が変わっているのは、その日常に何やら胡散臭い男(ウォルター・ローリー、エリザベス一世の恋人)が入り込んできてからの展開で、一度は落ちぶれた人物であるその男が、起死回生のチャンスとして女王に謁見するためメアリー達の手技が必要となり、その結果、ただの仕立て職人やお針子が大きな歴史のうねりの渦中に放り込まれて行ってしまうという内容を、、カトリックとイングランド国教会との対立、新世界への植民地活動に代表される大航海時代を背景に描いている事ですね。

血で血を洗うような英国王室の歴史?の中では「国王暗殺騒動」というのは何度もあったらしいが、ヘンリー8世が離婚を伴う結婚に絡んでローマカトリック教会と袂を別ってイングランド国教会をつくったというチューダー朝(16世紀)もかなりヤバイ時代だったらしい。(汗)

強大な権力を持ちながら孤独なエリザベス一世、その怒りの矛先を避けながら歓心を買おうと懸命な男達、そして、女王暗殺を企むカトリック教会勢力の暗躍・・・。

幼い時に母親を失い、偶然父の殺害現場に居合わせ天涯孤独となってしまったメアリーは、極普通の「お針子」にとってはあり得ない世界に放りこまれてしまって途方に暮れる・・・。生き抜くための手段として、父と共に養った「お針子」としての才を発揮し、その手によって生み出された華麗なマントはメアリーを王宮に導きますが、「陰謀」の存在を告げようにも女王の周囲には敵か味方か分らない人物ばかり・・・・。

意を決したメアリーが「告発」をしたとたん・・・小さなお針子の身にも暗殺者の影が迫る!!

中盤までは孤独と不安に苛まれるメアリーが描かれるのでかなりストレスが溜まりますね。でも女王が登場してからは何だか映画でも見ている雰囲気・・・エリザベスって凄い存在感です!!(汗)

そして結末では・・・ふと「ジェイン・エア」を思い出しました。言う間でもなくハッピーエンドで、英国女性の幸福観の一典型となっている?小説と、漂う情感が似ているのは偶然ではないのでしょうが、ほっとするラストです。

恐ろしくも優しい「女王」の姿と同時に、最後の瞬間まで敵味方のどちらになるか分らない登場人物たちの様子が描かれる展開は、エリザベス一世と言えども死と隣り合わせだったという時代を実感させてくれてますし、ただの仕立て職人やお針子かと思えば実は名の知れた家柄の末裔だったという結末はあの国の歴史も感じさせてくれて楽しめます。少女と女王を結びつける「お針子」という存在に着目し、細々とした職人の日常と王宮でのドラマチックな出来事を上手く取り込んで描いた異色の作品と言えます。

登場人物のロマンスが描かれる訳ではありませんが、広い意味でのロマンチックなYA向け歴史小説としてもお薦めです。

2011.09.11 Sunday

朽木 祥「オン・ザ・ライン」

朽木祥の新作です。

「風の靴」「引き出しの中の家」と読んできた作家さんですが、今回の新作は今までとは色合いが違います。表紙に描かれているのはテニスのラケットを持った高校生・・・何とスポ根ものです!(笑)

「引き出し・・・」の感覚からするとちょっと異質ですが、「風・・・」の路線からすると良いのかな?と正直戸惑いながら読み始めてみると・・・。

『テニス少年の底抜けに明るく切ない青春物語

ウルトラ体育会系だけれども活字中毒でもある文学少年、侃(カン)は、高校に入り、仲良くなった友だちに誘われて、テニス部に入ることになった。初めて手 にするラケットだったが、あっという間にテニスの虜になり、仲間と一緒に熱中した。テニス三昧の明るく脳天気な高校生活がいつでも続くように思えた が……、ある日、取り返しのつかない事故が起きる。

少年たちは、自己を見つめ、自分の生き方を模索し始める。 「恐ろしいほどの感動が、俺を圧倒した。若く溌剌とした魂の輝きがもし目に見えるとすれば、朝の光の中できっと俺はそれを見たのだ。 瞬くように過ぎ去るからこそ、二度と戻れないからこそ、このきらめくような瞬間はかけがえのない一瞬だった。」(本文から)
少年たちのあつい友情と避けがたい人生の悲しみ。切ないほどにきらめく少年たちの日々の物語。 』
(〜amazon)

前半、ストーリーとは無関係に、章毎に試合の一瞬を切り取った描写の1ページが挟まれ、テニスにかけた主人公達のきらめきの一瞬が表現される。後半では名画に関係した「絵手紙」も使われ、所々で本格的なクラシック音楽や美術の話題、ほのかな恋模様も絡めて感受性の強い少年達の日々が描かれていく・・・といった感じの凝った構成です。

そして、全体としてはスポ根もののお手軽なお話?と思って読み進むと全く違い・・・後半は一転して・・・苦悩に苛まれる主人公達が描かれて息を呑む・・・という展開が凄い!

自分のせいで友人が交通事故にあう・・・。全てが暗転し、目標を見失った少年は、逃げるようにして遠く離れた祖父の家に身を寄せ夏の日々を過す。ボケ始めた祖父!近所からやってくる傍若無人なちびっ子たち!実直で人情味あふれる人々と触れ合う島での暮らしを通して、次第に落ち着きを取り戻していく少年は、やがて一歩を踏み出す・・・というお話・・・。

書名の「オン・ザ・ライン」はもちろんテニス用語で「ベースライン/サイドラインの上に落ちたボールの状態をさし、インプレーとして扱われる。」(~mizuno HP)という意味。しかし、お話の中ではもっと広い意味での、人生における「瀬戸際」的な意味も含んでいるのかな?表紙の「切手風」のイラストからも分るように、後半頻繁に登場する「絵手紙」も重要で、少しずつ息を吹き返していく主人公達に寄り添う感触で使われていて、全体としては朽木祥らしい真摯で落ち着いた、しかも感動的なストーリーに仕上がってますね。

ちょっと唐突に「テニスかい??!」なんて思って読み始めましたが、実は作者の学生時代の経験も活かされているらしく、テニスというスポーツの魅力も存分に描かれています。一生楽しむなら、やっぱりテニスだよな〜・・・なんて思いながら、クローゼットの奥からラケットを持ち出してみる・・・・。

一応YA向けですが、そんなあなただったら、大人でも充分に楽しめる小説ですね。(笑)

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