雪太郎のつぶやき、あるいはプリンセス達の花園

あ〜!!おじさんなのに、「プリンセス・プリンセス」に嵌ってしまった〜〜!!(笑)
美しいもの、面白いもの、切ないもの、考えさせる物・・・。一人が好きだけど、独りじゃ寂しい。そんな私のつぶやき・・・・。ちょっとキモイかもね〜。
クラシック音楽が苦手な人にはお薦めできません。暗いのが嫌いな人にはお薦めできません!!お子様にもお薦めできません!!
[謝辞]
父と母に、家族に、多くの慰めと喜びを与えてくれた、過去、現在、そして未来の芸術家達に、感謝!!
[おことわり]
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2012.06.24 Sunday

乾石 智子「魔道師の月」

乾石 智子
東京創元社
¥ 2,100
(2012-04-21)

長編デビュー作「夜の写本師」に続く第二作です。
 
『こんなにも禍々しく、これほど強烈な悪意を発散する怖ろしい太古の闇に、なぜ誰も気づかないのか…。繁栄と平和を謳歌するコンスル帝国の皇帝のもとに、あ る日献上された幸運のお守り「暗樹」。だが、それは次第に帝国の中枢を蝕みはじめる。コンスル帝国お抱えの大地の魔道師でありながら、自らのうちに闇をも たぬ稀有な存在レイサンダー。大切な少女の悲惨な死を防げず、おのれの無力さと喪失感にうちのめされている、書物の魔道師キアルス。若きふたりの魔道師 の、そして四百年の昔、すべてを賭して闇と戦ったひとりの青年の運命が、時を超えて交錯する。人々の心に潜み棲み、破滅に導く太古の闇を退けることはかな うのか?『夜の写本師』で読書界を瞠目させた著者の第二作。』
(〜amazon)

18ページの短いプロローグ、それに続く二部の本編。そしてわずか2ページのエピローグからなる、トータル400ページ近い長編・・・仕事が忙しくて中々読めなかった事もあり・・・図書館から返却要請が来てしまいました!(笑)

登場するのは前作の影の主人公とも言えた?ギデスディン魔法の創始者にして書物の魔道師キアルス。キアルスと似た部分を持ち、最後には共に立ち上がる事になる帝国お抱え魔道師レイサンダー。そして過去の世界に生き、その体験をキアルスに見せることになるティバドール・・・等々。

「夜の写本師」はどことも知れぬ世界が舞台でしたが、この作品ではローマ時代の地中海世界を彷彿とさせる架空の地域が舞台となっています。冒頭には地図も掲載されえていて、前作より世界観がより具体的になっていますね。ローマ帝国がどんな国だったかは知りませんが、国の成り立ちや色々な面の制度、仕組みなどは「近い」ものを感じさせます。

プロローグを読み始めてすぐに感じるのは・・・「暗樹」という「驚異」への「違和感」です。ファンタジーにしては異様な存在感があってギョッとさせられます。幸運のお守りがやがて禍々しい「不幸の源」の正体を現わしていく様子は、何やら「現代社会にとっての原子力」を思わせる物があり、リアルな恐怖を感じる程で、作者がそこまで意識して書いているのかは知りませんが、掟破りとも感じる「悪意」の表現には驚かされました!

正直言って・・・当初はこの「暗樹」の強烈さを受入れがたいと感じましたが、物語が進むにつれて慣れていきました。これが作者の描き方によるのか?それとも単なる「慣れ」か?ちょっと微妙な部分です・・・。

他にも見所は多い。

前作同様の時代を超えた移動や現実世界とタペストリーの中の世界の移動なども描かれていますが、物語全体の構成がしっかりとしていて違和感がありません。強大な国家の発展の影で繰り広げられた小国群の生き残り策、魔道師という職業の成り立ちや地道な努力の姿、魔法を使うことの「意味」・・・魔道師の使う魔法が体系立てて説明されたり、魔法を使う事で得る物や失う物についても言及されていたりして、奥の深さを感じさせる・・・今までの「ファンタジー」とは一味違う作品だと思います。

クライマックスは「対決」場面となりますが、文字通りの「異次元体験」がリアルに描かれていて凄い!そしてラストでは・・・戦い終えた主人公が・・・恋人の胸にすがって泣きじゃくる・・・挫折から立ち直って偉業を成し遂げた主人公の、若者らしい硬軟両面をサラリと見せてくれて微笑ましいです。

全体として・・・これが第二作の新人作家とは到底思えない出来ですね。

新しいファンタジーを待ち望んでいた人に・・・どうぞ!

2012.05.27 Sunday

乾石 智子 「夜の写本師」

乾石 智子
東京創元社
¥ 1,785
(2011-04-28)

しばらく前の新聞広告をみて借りてみました・・・何やら「絶賛」されていたような記憶が・・・。

『右手に月石、左手に黒曜石、口のなかに真珠。三つの品をもって生まれてきたカリュドウ。だが、育ての親エイリャが殺されるのを目の当たりにしたことで、彼 の運命は一変する。女を殺しては魔法の力を奪う呪われた大魔道師アンジスト。月の巫女、闇の魔女、海の娘、アンジストに殺された三人の魔女の運命が、数千 年の時をへてカリュドウの運命とまじわる。エイリャの仇をうつべく、カリュドウは魔法とは異なった奇妙な力をあやつる“夜の写本師”としての修業をつむ が…。 』
(〜amazon)

山形出身の新人作家の長編デビュー作・・・らしいが、会社つとめの娘さんがいると言うから若い方では無さそう・・・。

ストーリーを一言で言えば「時を超えた復讐の物語」とでもいうのかな?1000年前の惨劇・・・死に際に復讐の呪いをかけ、何度も生まれ変わった「女」が憎き魔道師を追い詰めていき、遂には・・・というお話だ。

表紙も含めて装幀も雰囲気出ています。おどろおどろしくも何処か乾燥した空気感が漂い、中東から地中海にかけての海の香りも・・・。(嗅いだことないけど・・・笑。)

いわゆる魔術師でなく「魔道師」という表現、そして初めて聞く「写本師」という職業も興味深い。そして随所で見せる「暗く」て「痛い」表現や、アラベスクのような緻密で重層的な物語をまとめ上げる手腕は新人離れしている??

やはり・・・若い新人では無さそう・・・。(笑)

魔術を使うものは魔術師を恐れて防壁を築き上げるが、魔術を使える写本師・・・「夜の写本師」という存在がその盲点を突く・・・。斬新なトリックにも驚かされるが、意外な程晴明な結末が心地よい読後感を与えてくれます・・・。暗いばかりの「死」の物語が、最後の最後で「生」の物語に転ずる所は見事です!!

生まれ変りの体験を描く場面など過去と現在が交錯する事もあって登場人物も多く、記憶力が落ちている私にはちょっと辛かったのも正直なところですが、しっかりとした構成もあって何とか読了できました。時間があったら二度読みたいところですね。

今までにない魔術の匂い・・・お望みならば・・・どうぞ・・・。

2012.05.04 Friday

六条 仁真 「夏の迷宮―山人奇談録」

六条 仁真氏の「山人奇談録」に続く第2作です。

『夏は、あの世とこの世が、ほんのすこし近くなる。山奥の暗闇、底知れぬ水際、心を焦がす炎、龍の舞う嵐…。現実がゆらぎ、常世とまじりあう不思議な場所 で、めぐる生命を統べる偉大な山の主たちと出会い、少女の世界は輝きと深さを増してひろがっていく。山人の孫娘が綴る、ひときわあざやかな季節の物語』
(〜amazon)

記憶も朧なのでハッキリとは言えませんが・・・第1作では祖父と孫娘の経験するとても濃密な時間を感じました。そしてこの新作では・・・登場人物が増えた上、真夏の日々が舞台なので文字通り「明るいお話」になっていると思え、どこかアッケラカンとした雰囲気が漂っていますね。

登場人物は祖父と中学生の孫娘、孫娘の友人二人と友人の飼い犬一匹。後半では神社の神女を務めるお婆さんも加わって文字通り夏の迷宮への不思議な旅が描かれます。

水底に漂う人々、自然の中のヌシと呼ばれる存在との触れ合いや、「あの世」をのぞき見るような一時・・・。五話にわたって描かれる夏の日々は、「死」との境界を行き来するかのような恐ろしさと同時に、鮮烈な「生」の感触も伴っていて自然の中で生きる事の意味を感じさせてくれます・・・。

結末では・・・恐ろしいけれど全体としては明るい展開の本作を締め、子供達の成長も感じさせるように夏の終りの切ない叙情を漂わせて終わるという見事な構成です・・・。

さて、山人と言う、山に浸りきって生きてきた人間にしか見えない世界・・・そんな不思議な存在を描き出してくれた第1作から3年近く・・・一日一作を目標としている作者にしては随分と時間が掛ったのではないでしょうか??(笑)

率直に言うと、あまりに見事な前作に比べると神秘的な感触が薄まったかと思いますが、現代人の日常生活では想像も出来ない世界を描き出す力量はやはり大したものだと思います。これからやってくる・・・多分・・・暑い夏・・・備えの一冊としてもお薦めかな?(笑)

子供達はもちろん大人でも楽しめます。

2012.05.03 Thursday

菅野 雪虫「天山の巫女ソニン 巨山外伝 予言の娘」

出ました「ソニン」シリーズ外伝です!本編では白を基調とした装幀でしたが、この外伝では北国をイメージした?アイスブルー?でしょうか??繊細で丁寧な仕事ぶりからも内容の充実振りが分ります。

『ソニンが天山の巫女として成長したのは美しい四季に恵まれた沙維の国。イェラが王女として成長したのはその北に草原と森林が広がる寒さ厳しい巨山の国。孤 高の王女イェラが、春風のようなソニンと出会うまで、どのように生きてきたのかを紹介する、本編「天山の巫女ソニン」のサイドストーリー』
(〜amazon)

本編でソニンと共に活躍したのが北国巨山の王女イェラでした。「侵略者」でもありながら、影を帯びた孤高の存在として描かれたその姿は、ソニンとの交流を通して次第に人間味を帯びて行きましたが、本編のエピソードだけでは彼女の人間性の成り立ちも含めて描ききれない面が感じられました。ところが、「完結」から3年近く経っての登場したこの「外伝」では・・・何とそのイェラの生い立ちが描かれています!

久しぶりですので正直ちょっと心配だったのですが・・・読んでみると・・・。

う〜〜ん・・・これは素晴らしい!

過酷な自然に囲まれた巨山、その国を支配する王家の正妻に初めて生まれた子供がイェラだったが、「男子」を熱望する父王と母にはその存在を無視されたも同然の子供時代を送るになった・・・。

乳母や近しい者との触れ合いや読書に慰めを求め、自分の立場に達観して周囲に覚めた眼差しを向けるだけの孤独な日々を送っていたが、父王譲りの利発さに恵まれた少女は、いつしか異母兄弟たちの中で頭角を現わしていき・・・遂にはある事件をキッカケに!・・・というお話です。

「何としても男子を!!」という正妻である母親や側室たちの悲しい葛藤、その結果犠牲となるイェラや異母兄弟たち・・・。将来の王の座を射止めるための王家内部の争いの他にも、役人たちの中の勢力争いの中でイェラと心を通わせた者が命を落として行くという厳しい現実・・・。

王家の人間であるが故に経験する、過酷な経験がこれでもかと描かれていき、気丈なイェラの性格が形づくられていく様子が手にとるように分る内容と言えます。

また、「外伝」とは言っても、本編で描かれていた様々なエピソードとの関係もキチンと書かれており、シリーズ全体の構成も含めて「三国」の世界観が細部までしっかりと考えられていることも分かって感心します。ソニン本人も少しだけ登場しますが、そういえばこんな話があったな〜と思わず唸る形だったのでビックリさせられます!

菅野雪虫氏久々の登場を喜ぶとともに、これからもソニンの世界を書き続けて欲しいものだと思います。次回はちょっと成長したソニンとイェラの出会いを読みたいですね。

2011.09.05 Monday

犬村 小六「とある飛空士への追憶」

青空が映り込んだ瞳・・・印象的な表紙を新聞広告で見て借りてみました。

『話題の映画原作本、新装版で一般発売!

傭兵飛空士・シャルルは、流民上がりである自分が未来の皇妃ファナを本国まで送り届けるという荒唐無稽な指令に我が耳を疑った。圧倒的攻撃力の敵国戦闘機 「真電」が、シャルルたちの搭乗する複座式水上偵察機「サンタ・クルス」に襲いかかるなか、ふたりは無事本国まで辿り着けるのか? そして、飛行中に芽生えたシャルルとファナの恋の行方は――!?
蒼天に積乱雲がたちのぼる夏の洋上にきらめいた、恋と空戦の物語』
(〜amazon)

2008年に発売されていたライトノベルの新装版らしい。『2008年Amazonエディターランキング1位、2008年Amazon売り上げランキング6位、2009大学読書人大賞2位など、すばらしい評価』ということですが、今まで全く知りませんでしたね。(汗)

みんな知ってる本らしいので内容は書きませんが、冒頭の入りからお話の展開が上手く、いかにもライトノベルの「王道」を行っていると感じます。思わず引き込まれて一気読みしてしまいました。

読んでいて感じたのが何だかジブリ風・・・と言う事。作者が「ラピュタ」と「ローマの休日」を思い浮かべながら書いたと何処かに載っていたようだけど、確かにそんな内容で、「ラピュタ」はもちろん、「ナウシカ」から「豚」まで思い浮かびます。宮崎駿だったら飛びつきそうだけれど、たしかこの間のドキュメンタリーで、宮崎さんがこんな名前の本を持っていたような記憶が!??(笑)

「飛空士」「飛空機」「飛空戦艦」など、独特の言い回しがあり、描かれる場面の多くが激しい空戦と言う事で「男の子」には受ける要素が多い。女性陣の受け止め方が分らないけれど、意外なほどロマンチックなストーリーなので、大丈夫か?

主人公の二人がそれぞれに不幸な部分を持ちながら、子供の頃の出会いが支えとなって凜とした生き方を貫くというストーリーは、ライトノベルの要素として重要な「純真さ」に通じるもので、抑制された飛空士の感情表現と相まって「深み」を与えていると思います。

新装版ということで加筆・訂正が行なわれているらしい。多分巻末の「終章」だと思うけど、ファナと国のその後が書かれ、まるで歴史書の一部のように全編の幕が降ろされます。書名にある「追憶」にふさわしい終りかたですね。

全く予備知識無しで読み始めましたが、切羽詰まった命懸けの場面やファンタジックな場面、ちょっとコミカルな場面に切ない場面もあって読ませます。爽快で切ないラブ・ファンタジーとでも言えるお話で、若い人には特にお勧めですね。

2011.08.19 Friday

ジョゼフ・ディレイニー「魔使いの犠牲」

田中亜希子 訳

原題は「The Spook's Sacrifice」。1945年イングランド北部ランカシャー生まれのジョゼフ・ディレイニー(joseph Delaney)が書いた魔使いシリーズ(The Spook's stories)は今まで5話(7冊)が刊行されています。表紙や挿絵は全て佐竹美保さんで、細かなカットや文字など、装幀も含めてファンタジーらしい統一感があって素晴らしいシリーズです。

実は「魔使いの弟子」「魔使いの呪い」「魔使いの秘密」「魔使いの戦い(上下)」「魔使いの過ち(上・下)」と全部読んでいますが・・・今まで投稿してなかったかな???(汗)

『ぼくはトム。七番目の息子の七番目の息子だ。久々に故郷のギリシアからもどってきた母さんに会うために、ぼくと師匠はジャックの農場に向かった。でも、な んだか様子が変だ。農場のまわりでは、なんとペンドルの魔女たちが野営している。驚いたことに、ギリシアで母さんの宿敵、女神オーディーンと戦うために、 ぼくや師匠だけでなく、魔女の助けまでもが必要らしい。魔女と同盟なんてとんでもないと、師匠は怒って立ち去ってしまったが、ぼくは母さんやアリスや魔女 たちといっしょにギリシアを目指して出発した。故郷を遠く離れた異国の地、ギリシアでトムを待つ運命は』
(〜amazon)

このシリーズの特徴を一言で言えば・・・「魔使い」であって「魔法使い」ではないと言う事が挙げられます。「魔女」や「悪魔」、「悪霊」や「精霊」等々・・・様々な悪しき存在が登場しますが、人の側に立ってそれらに対向するのが「魔使い」で、格好良く魔法を駆使して困難を切り抜ける・・・のではなく「ナナカマドの杖」「塩」「銀の鎖」・・・等の実に地味な武器と格闘技、そして「穴掘りの技」くらいが武器だったかな???(汗)呪文もあったかどうか?もはや霧の彼方で不明・・・そうそう・・・あとは知恵と勇気と・・・愛だね!!?。(笑)

派手さは無く、「闇」に関わる者として家族から疎まれる事もある存在ですが、逆にリアリティーもあります。

主人公のトムは「七番目の息子の七番目の息子」で、生まれながらにして魔使いとして生きる事を宿命付けられた少年。そこには「暗雲漂う未来」を救うためにと一計を案じた母親の意思が働いていたらしい・・・。

初期の作品では、トムの弟子入りから修行の日々が描かれ、様々のエピソードを経て徐々に強大な「敵」に立ち向かう展開となってきました。この最新作では「女神オーディン」が相手で、実におどろおどろしく不気味な雰囲気が上手く描かれています。トムと母親の、オーディンとの最後の戦いなどもちょっと神秘的で壮絶・・・。

そして、魔女たち援軍の力も得て何とか勝利するが・・・大切な人との「別れ」という大きな犠牲が払われた上での事だった・・・。

シリーズもクライマックスに差し掛かったようで、次には最強にして宿命の敵「魔王」との戦いに突入しそう・・・地味な「魔使い」にどんな戦い方があるのか?今回、生き残りのための最後の手段として互いに離れられない存在となってしまったトムとアリスの行く末は・・・?二人の愛が世界を救うか???

いろいろと興味深く、待ち遠しいんです・・・。

2009.05.14 Thursday

ジョゼフ・ ディレイニー「魔使いの戦い〈下〉」

ジョゼフ ディレイニー
東京創元社
¥ 1,995
(2009-02)

ちょっと前後してしまいましたが、下巻です。

上巻の結末では、人質となった兄一家と母親から受け継いだトランク三個を奪い返し、さらには「邪悪な存在」の出現を阻止するため、魔女の集団に戦いを挑む!と言うところで終わりましたが、下巻ではいよいよその戦いと、結末が描かれますが・・・。

今までのお話でもそうでしたが、魔使いの戦いの現実は、実のところ大変地味な職人芸の積み重ねであることが改めて分かります。呪文を使うわけでも空を飛ぶわけでもなく、武器はナナカマドの杖と銀の鎖、塩と鉄粉・・・。常人では見えない「それ」が見え、感じることが出来る鋭敏な感覚、過去の事例を学んだり実際に経験して得る知識と知恵、あとは・・・勇気だけが頼り?相手が多ければ、周囲の男たちを説得してまわり・・・最後には運を天に任せるように、本能の命ずるまま恐怖のまっただ中にその身を投じる・・・実に心細い職業です。(汗)

前半は兄一家とトランク奪還のお話で、友人でもある魔女の娘アリスと、邪悪な魔女マブ、そして主人公トムの間のぎりぎりの駆け引きが繰り広げられます。3人の間の「恋」も絡んだ虚々実々のやりとりが、それぞれをどこまで信用するか、どこまで「嘘」をつくかと悩むトムの姿を通して描かれますが、魔女が人間の男をいかにして惹きつけるかという面も書かれていて、人間の「女」も似たようなものか・・・怖いものだ・・・と妙に感心します。(笑)

後半は、魔女集団による「邪悪な存在」(実は「悪魔」)の召喚を阻止しようとする魔使いたちの戦いと、トムを襲う恐怖!そして、世界を覆う暗雲が描かれ・・・一応はハッピーエンドですが、一番怖いのは・・・実は人間の行い・・・という風にもとれる結末で終わっています。

クライマックスは「トムを襲う恐怖!」ですね。いまだ「見習い」なのに、たった一人で迫り来る恐怖と戦わなければならなくなったトムの、ひりひりとした極限状態の心の動きが凄まじい。そう言えば、今まで同様に、師匠の影が薄いな〜。(笑)

ま、それだけトムが成長していると言う事です。(汗)

「魔使い」という「実に心細い職業」を描いたこの物語ですが、それが逆にリアリティーを感じさせるとも思います。あまりに荒唐無稽なお話より、かえって興味深く読める、楽しめるとも思いますね。

第五巻「魔使いの過ち」も刊行予定らしいので楽しみに待ちましょう。

2009.05.08 Friday

ジョゼフ ・ディレイニー「魔使いの戦い〈上〉」

ジョゼフ ディレイニー
東京創元社
¥ 1,995
(2009-02)

シリーズ第四巻。やっと予約が・・・。(汗)

この「魔使い」シリーズは「魔使いの弟子」「呪い」「秘密」「戦い」と来ましたが、amazonの紹介文によるとこの後に「失敗」もあるようですね。この第四巻は上下巻に分かれているためかちょっと薄いけれど・・・無理して分ける必要があったのか???(笑)

「ぼくはトム。七番目の息子の七番目の息子だ。魔使いに弟子入りして二年目、いよいよ師匠の魔使いとアリスとともに、ペンドルの魔女集団を片づけにいくこと になった。魔使いの友人だというペンドルの司祭に助けてもらっても、魔女たちが相手だと思うとなんだか不安でいっぱいだ。ところがそんな矢先、亡き父さん の農場を継いでいる一番上の兄、ジャック一家が何者かにさらわれた!しかも、故郷に戻ってしまった母さんが、ぼくに残していった三つのトランクも奪われて しまったのだ。いったい誰が?トムは兄一家をみつけだし、トランクを無事取りもどすことができるのか。 」
(〜amazon)

う〜ん・・・今までと、雰囲気的には全く同じなのが凄い!(笑)

第三巻の結末は何やら暗雲垂れ込める状況で終わりましたが、いよいよその中に突入する!というお話です。まだまだ見習いですからおっかなびっくりですが、それなりに自分で判断して危険に対処していく主人公トムの行動が描かれていきます。いかにも成長しました!!という書き方ではないのですが、実際の所人間の成長というのはその様なものですから良いのかな。(笑)

そして、そんなトムの相棒として描かれるのが、魔女の女の子アリス。魔女の一族に生まれ、「本物」の魔女になるかどうかの微妙な位置にいるため、トムの師匠からは「危険人物」と見なされることに・・・。この辺の、アリスを信用するかどうか、どう対処するかというのも「戦い」の目玉か・・・。

最悪の場合を考えて行動しようとする「師匠」と、アリスに対する「思い」もあって「心」を乱すトム。二人の間の葛藤や、そんな二人に役立とうと奮闘するアリス、そして3人の前に立ちはだかる「魔女」たちとの間で繰り広げられていく丁々発止のやりとり・・・陰惨な場面もありますが、何故か「恋」が絡んできたりして、意外とアッケラカンとした空気が漂っているのが不思議。(笑)

今までになく「邪悪」な存在が浮かび上がってくる「戦い」ですが、本当の「戦い」は下巻で交わされるようです。待て!次号ってことで・・・。(汗)


2009.04.22 Wednesday

ジョゼフ ・ディレイニー 「魔使いの秘密 」

ジョゼフ ディレイニー
東京創元社
¥ 2,625
(2008-02)

 金原 瑞人 田中 亜希子訳

シリーズ第三巻。

「ぼくはトム。師匠の魔使いと、魔女の女の子アリスと一緒に暮らしている。ところが冬になったとたん、師匠は居心地のいいチペンデンの家から、アングルザー ク高原にある冬の家に移るという。アングルザークは、なにかといやなうわさのある土地だ。しかもアリスは一緒に住めないなんて…。暗くて陰気な冬の家で 待っていたのは、広い地下室にある、魔女やボガートを封じ込めた穴、そして師匠のかつての恋人で、ラミア魔女のメグだった。おまけに師匠の出来損ないのも と弟子モーガンが、この地で冬の魔王ゴルゴスを目覚めさせようとしているらしい!ボガート退治で大怪我をした魔使いのかわりに、孤軍奮闘するトム。師匠を 助け、モーガンの野望をくじくことができるのか?好評シリーズ第三弾。 」
(〜amazon)

第二巻は「魔使いの呪い」、そしてこの第三巻は「秘密」です。トムの師匠である「魔使い」って、何だか色々あるんです。昔の恋人、不肖の弟子・・・。そして、主人公のトムはその部分で師匠に対する全幅の信頼を寄せることが出来ずに悩む。これまた第二巻と同じ、そして今回も師匠は怪我で使えない!(笑)結局トムはまたまた一人で孤軍奮闘する事に・・・。クライマックスでは恐怖の波状攻撃を受けて圧倒されます!

ただ、その経験がトムを「強くする」のも事実。いつものように、地道な日々の積み重ねが、弟子を育てていく・・・。

結末は大きく動きます。表面上は一応ハッピーエンドなのだけれど、いくつもの辛い別れや大きな波乱を予言する部分もあり、嵐の前の何とか・・・という雰囲気ですね。

ということで、やっと先日見かけた新刊が読めます。(笑)

2009.04.21 Tuesday

ジョゼフ ディレイニー 「魔使いの呪い」

ジョゼフ ディレイニー
東京創元社
¥ 2,520
(2007-09)



金原 瑞人 田中 亜希子訳 (amazonに画像が無いのでちょっと細工・・・。)

シリーズ第二巻。表紙と挿絵は佐竹美保氏。道具の使い方で一部間違いがありますが、全体としては大変快調です。(笑)この物語の雰囲気の半分は挿絵で決まっていると感じるほどですし、字面、装幀など、全体としての完成度も高い本です。

「ぼくはトム。魔使いに弟子入りして半年。修業は大変でまだまだ半人前だけど、なんとかやっている。そんなある日、人の血を好むボガート、リッパーを退治し てくれという依頼があった。襲われたのは、なんと師匠である魔使いのお兄さん。病気で寝こんでいる師匠のかわりになんとかボガートは退治したが、こんどは 魔使いが弱った体で、古代の悪霊ベインが巣くう大聖堂の町プライズタウンに向かうと言い出した。だが、そこには魔使いをつけ狙う、冷酷な魔女狩り長官の影 が…。そして捕らえられた魔女たちのなかにぼくが見たのは、たったひとりの友だちアリスの姿だった。魔使いの弟子トムの成長と冒険を描く、シリーズ第二 弾。」
(~amazon)

一巻でも書きましたが、このシリーズ、いわゆる「魔法使い」の物語とは随分風合いが違い、「地道な職業」としての「魔使い」の生活が書かれています。感覚的には「ゲド戦記」に近いものがありますね。

弟子であるトムがするのは荷物持ちであり、講義をメモすることであり、魔物を閉じ込めるために必死で「穴掘り」をしたり、空腹に耐えて歩くことであり、魔女狩りにあって火あぶりにされそうになったり、と実に地味です。(汗)お手軽な「魔法」で全てが解決なんてことはありません。何だか大変です。(笑)

今回は前半と後半で大きな仕事をすることになるのですが、予定通りに済んだのは前半だけ。後半はほとんど手探り状態の中で悪戦苦闘します。意識のない師匠、悪に染まった?アリス。邪悪な悪霊の「囁き」を聞きながら、進退窮まったトムは決断を迫られます。

「七番目の息子の七番目の息子」という良くある境遇に生まれた主人公のトムですが、天賦の才能をドンドン開花させて素晴らしい魔使いになるのか?というとそうでもなく、悩み、迷い、失敗をしながら経験の積み、その上での精神的な成長によって次第に一人前になっていくというお話のようです。特に目立つのは、どこまで人を信用するかという部分での主人公トムの逡巡ですね。そして、最後の最後での選択の仕方にトムの人間性が表れる・・・という展開。

今回は父母に関わる辛い現実、師匠の秘密や身近な人間の非業の死などもあって暗い雰囲気の場面も多かった。巻末を読むと、次巻もなにやら波乱を予感させます。中々硬派なお話ですよ。

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