2011.11.05 Saturday
斉藤 洋 「 遠く不思議な夏」
『母の郷里ですごした、少年時代の夏休み。そのなんでもない田舎ぐらしの中でぼくは幻とも現実ともつかない不思議なできごとに出会う。昭和三十年代を舞台につづる12の奇譚。小学校高学年から』
(~amazon)
昭和30年代の田舎が舞台とくれば「トトロ」もそうでしたっけ?(笑)戦後の混乱期も乗り越え、皆貧しくとも地道に生きていた時代。同時に、経済発展にともなって古き良き存在が消えて行った時代でもあったような・・・。
この本で描かれるのは、主人公が夏休みを過した田舎で体験する不思議な出会いと別れですね。氏神様・・・狐・・・座敷童に幽霊、人魂・・・・。神や仏、先祖の霊や自然の中の不思議な存在が子供だけに分る形で姿を現わす。時に怖くもあり、時に優しく愉快でもあるそれらとの触れ合いが淡々と描かれていきます。
幼い時は意味も分らず無心に見つめるだけですが、成長するに従って互いに交流が生まれます。しかし、その先は・・・ある年齢に達すると「子供の時間」は終りを迎える・・・。
不思議な存在の意味や理由を考え始める頃に、別れが用意されているというのはちょっと切ないですね。でも、そうやって・・・皆大人になってきたのか・・・。
作者の体験記という雰囲気で書かれた児童向け小説かと思います。「奇譚」とあるように少々怖い部分もありますがさほど劇的な展開はなく、全編にゆったり、ほのぼのとした感触が拡がっています。
冒頭から最後まで一人の不思議な人物が登場します。ひょっとしたら村の守り神か?という雰囲気の人物ですが、最後にはどこへとも知れず消えて行く・・・やはり時代の変遷を象徴するような存在です。
いつしか疎遠になってしまった存在・・・思いを馳せる田舎を持つ人には懐かしいでしょう。都会育ちに方には、古き良き日本の「心の風景」の様な不思議な体験ができる本と言えます。