第43話 「東の海神 西の滄海」 三章
尚隆が王になる前の荒廃する雁国で、斡由は元州の民のためにと父である州候・元魁から位を奪い、そして民を守った。元州だけが豊かだった―――。しかし、延王・尚隆がたち他州が潤い、元州との差はなくなっていった。元州をもっと潤わせるため、自治を取り戻そうと六太を捕虜とした斡由は、王位を簒奪する逆賊とうつった。それは、関弓を出て元州に着いた志願兵の軍が二万を超えていたことより明らかだった。
一方六太は、看病をしていた女官・銘心から地下の道を使い逃げるようにと言われる。
第44話 「東の海神 西の滄海」 終章
女官の助けにより抜け出した六太は、抜け道である地下道で迷っていた。そこへ元州大僕らが六太を探しに来た。その部下の声に、六太は目を見開いた―――。
一方、漉水をはさみ頑朴対岸にとどまる王師と兵卒らは、土嚢を積みあげ堤を築いた。上流で降り出した雨に漉水の水かさは増し始めている。堤のおかげで川の氾濫の心配はない、そう民達は安堵していた。しかし、漉水上流・新易にある北囲の廬に、斡由の命により州師が乗る騎馬二百騎があらわれ、突如築き上げた堤を切り始める。
(〜NHK HP)
身を捨てて六太を救おうとした驪媚。しかし彼女の血を浴びた六太は意識を失う。看病する女官は、驪媚の意思を無駄にせず、民の為にと六太を逃がすが・・・・更夜のよって殺される・・・。斡由のために、更夜は汚れ役を果たしてきたのだった・・・。
民の為にと言いながら、実は権力にこだわるだけの斡由。王師と対面しても劣勢の責任を他に押し付け、あくまで意志を通そうとする。一方、州師の間に身を潜めた尚隆は巧妙に六太と斡由に近づく・・・。
尚隆に見つかった六太は一緒に更夜の元に戻り説得を試みるが・・・。
「六太・・・大丈夫?・・・苦しい?」寝台に横たわる六太に、心配した更夜が問いかける。
「大丈夫だ・・・。それよりお前・・・うっ!」顔をしかめて苦しむ六太。
「六太!!」慌てる更夜。
「更夜・・・お前・・・血の匂いがする・・・」ギクリとする更夜。
「お前・・・人、殺したんだな・・?この間までは、確かに血の匂いはしなかったのに・・・」ため息をつく更夜・・・。
「今は非常時だからね・・・六太が卿伯に仇なせば、六太だって殺す・・・」
「更夜に人殺しを命じるなんて・・・。更夜はあんなに殺戮を嫌がってたのに・・・。最初に会った時、そう言ってたじゃないか?」幼い頃の出会いを思い出す更夜・・・。
「なのに斡由は人殺しを命じる・・・」
「オレはもうそんな事気にしない・・・。昔の話だよ・・・。オレは斡由の臣だから、斡由が殺して欲しいのなら、誰であろうと殺す・・・。麒麟もそうなんだろ?王に命じられれば・・・」
「尚隆は人殺しを命じたりしない・・・」
「人など何をするか分からない!!六太の主だってそれは同じだ!!」叫ぶ更夜。
「そんなことはせんよ!」横で控えていた尚隆が言葉を挟む。
「そいつにさせるより、俺がやった方が早いからな・・・」
「延王??!!」正体を知って驚く更夜。
「更夜とやら、お前は本当に六太の友のようなので頼む、そいつを帰してはもらえんか?どうしようもない悪ガキだが、これがいないと多少は困る事もあるのだ・・・」
「麒麟がいなければ、仁道を見失う・・・か?」皮肉を言う更夜。
「いや・・・ガミガミ言う官の矛先が俺にばかり集中する」とぼける尚隆。(笑)
「何が目的で元に侵入した?卿伯か?」尚隆の背後から更夜の妖魔が唸りながら忍び寄る。
「止せ!!」六太が叫ぶ。
「尚隆に何かしたら許さない!」苦しげに言う六太。
「今更、王を庇うのか?」
「オレは尚隆の臣なんだよ!」
「オレだって卿伯の・・・斡由の臣だよ!」
「オレは・・・更夜が好きだよ・・・。けど・・・そんなに血の匂いがしてちゃ・・・更夜のそばにも寄れない・・・」顔を背ける更夜・・・。
「仕方ない・・・。六太が尚隆を守りたいように・・・オレは斡由を守りたい!」
「そのために誰を殺しても良いのか??!!」叫ぶ六太。
「斡由が良しとするなら、人を殺しても良いのか?!」問い詰める六太。
「道にもとって兵を挙げて良いのか??!!」
「それで、国を傾けて良いのか??!!」
「更夜は・・・自分のような子供を作りたいのか??!!!」ハッとする更夜・・。
「他人なんか知らない・・・」力なくつぶやく更夜・・・。
「なぜ人が死んではいけないんだ・・・。国が滅んで、それがなぜいけないんだ」つぶやく更夜・・・茫然として聞く六太。
「人というのはいつか死ぬものだ・・・。国というのはいつか傾くものだ・・・。どれほど惜しんでも、滅んでいくのを止められない・・・」
「斡由だけ良ければ良いんだ!!」叫ぶ更夜。
「国が傾くのが怖いか?荒廃が怖いか?死が怖いか?・・・」尚隆に問いかける更夜。
「楽になる方法を教えてやろうか?・・・全部滅びてしまえば良いんだ!!」
「斡由が死んでも良いのか?・・・」力なく問いかける六太・・・。
「斡由が死にたいのだったら・・・それで良いよ・・・」
「ふざけるな!!」叫ぶ尚隆。
「国が滅んでも良いだと?死んでも良いだとぬかすのか??!!俺の国民が!!民がそう言えば・・・俺は何のためにあれば良いのだ!!??」詰め寄る尚隆。
「ここはお前の国だ・・・斡由だけがお前のものなのではない!この国は・・・お前のものなんだぞ!!」更夜の肩に手をかけ、尚隆は続ける・・・。
「民のいない王に何の意味がある?国を頼むと民から託されているからこそ、俺は王でいられるのだぞ!!」
「その民が・・・国など滅んで良いという・・・」
「では俺は、何のためにここに居るのだ!!」叫ぶ尚隆。圧倒される更夜・・・。
「俺は一度国を失くした・・・」蓬莱での最後の日々を思い出す尚隆・・。
「民に準じて、死んでしまえば良かったものを・・・。それをしなかったのは・・・まだ托される国があると聞いたからだ・・・」
「俺はお前に・・・豊かな国を渡すためだけに居るのだ・・・更夜・・・」
「オレは・・・そんな奇麗事を信じるほどおめでたくないよ・・・」尚隆の視線から顔を背け・・・肩の尚隆の手を払いのけ出て行く更夜・・・。
「更夜!!」叫ぶ六太・・・。
「オレは何も聞いてない・・・何も知らない・・・」妖魔を撫でながら・・・去って行く更夜。
茫然と見送る六太と尚隆・・・。
民も味方して州師を圧倒する王師。六太と尚隆によって自分のやった事の顛末が全て明らかにされ、追い詰められた斡由は・・・遂に尚隆に切り掛かり・・・討たれる・・・。
すべてが終わり、州城を去る更夜。尚隆と六太が見送る。
「更夜・・言ったろう。俺はお前に、豊かな国を手渡す為にあるのだ」
「オレ以外のやつに与えてやれば良い・・・」妖魔を撫でながら答える更夜・・。
「欲しがっているやつは、いくらでもいるだろう・・・」
「俺は欲張りだからな。百万の民と、百万と一の民なら・・・後者を選ぶ」
「オレにも、大きいのにも・・・行く場所なんか無いんだ・・・」力なくつぶやく更夜。
「オレは妖魔の子だから・・・」
「大きいのは、オレに背いて人を襲ったりしない・・・ちゃんとオレのいう事を聞くんだ・・・オレのために・・・ずっと我慢してくれているんだ・・・」妖魔を抱きしめて泣く更夜・・・。慰めるように小さく唸る妖魔。
「更夜・・・」つぶやく六太・・・。
「では、お前とその妖魔に、住む場所を与えよう・・・」歩み寄る尚隆・・・。
「どんな贅沢な牢獄?銀の格子の檻だろうか・・・?」
「妖魔に、襲われることの無い国だ・・・」妖魔を撫でながら尚隆が言う。
「え・・・」妖魔から顔を上げる更夜・・・。
「時間をくれぬか・・更夜。お前も・・・この養い親も、追われることの無い土地をやろう・・・」
「そんな世が本当に来るのだろうか?」真直ぐに尚隆を見つめながら更夜は聞く・・・。
「そのために・・・俺はあるのだ!・・更夜・・・」更夜の視線を受け止めて答える尚隆・・・。
「待っている・・・」溢れる涙をそのままに、顔を伏せる更夜。
「黄海で・・・雁がそんな国になるのを待っている・・・」
「いつまででも・・・・待っているから・・・・」
飛び立つ妖魔の背に乗り、去って行く更夜・・・。見送る六太と尚隆・・・。
「ありがとな・・・」小声でつぶやく六太・・・。
「何がだ?」
「・・・更夜を・・・許してくれて・・・」
「別段・・・お前のためにしたことではない・・・」
「ひょっとして怒ってるのか?・・・怒って当然だな・・・」
「任せろと言ったろう!」
「うん・・・・」小さくうなずく六太・・・。
「朱衡や帷湍たちといい、六太といい・・・全く俺の臣は、見る目が無さ過ぎる・・・」
「尚隆・・・」
「何だ?」
「尚隆は・・・更夜に約束したように、オレにも、オレのための場所をくれるだろうか?」
「お前も・・・雁国民の端くれだからな・・・。それで、どんな場所が欲しい?」
「緑の山野!!誰もが飢えないですむ豊かな国・・・凍える事も、夜露に濡れる事も無い家・・・民の誰もが安穏とし、飢える心配も戦火に追われる心配も無い・・・安らかな土地が欲しい!・・・オレはずっとそれが欲しかった・・・。親が子供を捨てたりしないでも生きていける豊かな国・・・」
「お前は・・・約束を違えず、俺に一国をくれた。・・・だから俺は約束する。必ず・・・平和で・・・緑豊かな国を・・・お前に返そう・・・」
「うん・・・ではオレは・・・尚隆が良いと言うまで・・・目をつむっている・・・」
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「完」
延王尚隆の登極直後の波乱の模様が描かれた4話でした。後の雁国を支える有能な官との出会い、互いの行き違いと、乱を通して理解しあう様、そして犠牲となった官や民たち。王と延麒の絆の深まり。そして辛い別れ。簡単に500年も続いたわけではない事、続ける事の難しさも描かれていましたね。
アニメの場合は、景王陽子にことの顛末を延王が語る、というスタイルになってましたが、これは・・・オマケですかね?(笑)斡由の悲しい生き様を尚隆が意識する必要があったのか?ちょっと分かりません。原作との微妙な違い・・・味わいましょう。(笑)
これで、「東の海神 西の滄海」編の本編は終わりです。という事は十二国記全編の終わり・・・ということですね。(転章がありますが・・・)長いようで短い?人それぞれでしょうが、残念のひとことですね。原作が完結していればまだ制作されたんですが・・・。いつか続編が制作されることを祈りましょう。
そういえば・・・原作もかなり忘れました。(笑)暇をみて読み返しましょう。